君 に 出 会 う ず っ と 前 か ら 君 の こ と を 愛 し て ま し た
君 は こ の 世 界 で た っ た 一 つ の 片 翼 の 羽
会いたくて 愛しくて
でも 届かなくて
だから このソラに願った
手 を 伸 ば し た ら そ の 先 に 在 る 君 に 届 く よ う に ―――
―― C.E 70 2月14日
「じゃあ、おばあちゃん。そろそろシャトルが出るから行くね」
繋いでいた祖母の手をそっと外して自分と目線の変わらない祖母に抱きついた。そして、にこりと微笑んだ。
その言葉と大きくなった孫の姿にアイは小さく頷く。祖母と呼ぶには若い彼女は笑顔の綺麗な女性だった。
「また一年後に遊びに来て頂戴ね、ちゃん」
シャトルに乗り込もうとしたの背中にアイが言葉を投げかけた。背までの深紅の髪を揺らし振り返る。
アイは優しく微笑んで手を振っていた。大好きな祖母と次に会えるのは1年後だと考えると寂しさが募った。
だが、まさか帰らないわけにもいかない。プラントにはの大切な人達が待っているのだから帰らねば。
「うん。来年ね、おばあちゃん!」
いつだったか、女らしさを見せてはいけないといわれて育った。だが、祖母の前では女の子ののまま。
本来ので居られる。早く来年になれば良いのにと思いながら手を振り替えし、シャトルに乗り込んだ。
<間も無くプラント行きのシャトルが発射致します。御搭乗の方はお早めに――>
出発の合図である放送が入った
(・・・また来年、か・・・遠いな・・・)
スッと闇色の瞳を細め 刻み込むようにユニウスセブンの景色を眺めた
これから自分は実家のあるセクスティリス市に戻る。家に帰っても待っているのはあの窮屈な毎日だけだ。
出来れば一時居候させてもらってた幼友達のラクスの元に身を寄せたいが、こればかりは我侭言えない。
楽しく思えるのは幼少に母から与えられたバイオリンを奏でることくらい。の特技はバイオリンである。
今回祖母の家に来た際も、新たに覚えたばかりのバイオリン曲を演奏して聴かせた。とても喜んで貰えた。
演奏者のも嬉しかった。その時、祖母にプラントの演奏仲間の話もした。祖母は笑って聞いてくれた。
演奏会もしていると告げると、じゃあ一度聞きに行かねばと笑った祖母に新たにやる気が出たのは事実だ。
(次は何の曲にしよう・・・)
自然と 心がわくわくと躍った
祖母はユニウスセブンで一人暮らしていた。なぜ母と暮らさないのかと聞くと困ったように笑うだけだった。
特に仲が悪いわけでないのは、幼少の頃に祖母の家に預けに連れて行ってくれた母の様子から分かった。
しかし、ならば何故一緒に暮らさないのかは分からない。からすれば一緒に暮らしてくれたら嬉しい。
だが、それは高望みだろう。今こうして年に一度でも会いに行けるだけでも十分すぎるほど嬉しいのだから。
<本日は御搭乗真に有難う御座います。プラント行きシャトルは明日の午前着予定――>
在り来たりなアナウンスがシャトル内に響く
シャトル内は旅行話など賑わっていて、案の定、殆どが聞いていない。 アナウンサーからすると寂しい話。
マヒトはふと思い出した様に鞄から携帯を取り出した。そして、素早くある人に向けてメールを打ち始めた。
「・・・よしっと」
送信ボタンを押した所で、今度こそは頬を綻ばせた。後は大好きな従兄弟からの返事を待つだけだ。
彼は今何をやっているだろうか。 趣味のピアノの演奏をしているか、若しくは、作曲の最中かも知れない。
どちらにせよ思い当たるのが音楽関係ばかりなんて彼らしい。は早く返事が来ないかと携帯を見た。
From:caprice To:Nicol
Title:今、シャトルの中だよ
元 気 で し た か ? と 言 っ て も 昨 日 メ ー ル し た ば っ か だ け ど ね 。
タ イ ト ル 通 り な ん だ け ど 、 明 日 の 午 前 中 に は 着 く ん だ っ て 。
帰 っ た ら 一 番 に 会 い に 行 く よ 。
こ の 間 、 一 緒 に 演 奏 し よ う っ て 決 め た 曲 あ る で し ょ ?
あ れ 弾 け る よ う に な っ た ん だ 。
早 速 セ ッ シ ョ ン し よ う ね 。 楽 し み に し て て !
が送ったメール。従兄弟はピアノが上手ではバイオリンが得意だ。だから、よくセッションをした。
一緒に演奏会を開いたりした。祖母に話した演奏仲間の一人は従兄弟のニコルだ。もう一人は歌姫ラクス。
最近はご無沙汰だが、今度祖母を呼ぶ口実に開きたいと思う。電子音が鳴る。返事は思ったより早かった。
From:Nicol To:caprice
Title:わかりました
昨 日 ぶ り で す ね 。 も う シ ャ ト ル は 出 発 し た ん で す か ?
帰 っ た ら っ て ・ ・ ・ 先 に お じ さ ま 達 に 会 っ て か ら 来 て く だ さ い よ 。
あ の 曲 弾 け る よ う に な っ た ん で す か ? 楽 し み に し て ま す 。
気 を つ け て 帰 っ て 来 て く だ さ い ね 。 そ れ で は 。
返って来たメールは簡潔だった。あまりにもニコルらしいその文面に心配性だなぁと思わず笑ってしまった。
本文から察するにニコルも完成間近までにはなっているだろう。負けていられない。帰ったら練習しないと。
弾けるようになったと豪語して失敗したら笑われる。ニコルのピアノの音を潰さないように練習あるのみだ。
だが、それにしても――
「・・・ニコルの心配性」
本文の最後の一文を読んで思わず頬が緩んだ。どんな顔をしてこの文章を打っていたのだろう。心配性だ。
両親でさえこんな文章無かった。昔から心配性なところはまるで変わらない。そう呟くは小さく笑った。
そして、素早くボタンを打ちメール返信する。従兄弟離れ出来てないと笑われるかも知れないが構わない。
From:caprice To:Nicol
Title:もう出発したよ
は や く ニ コ ル に 会 い た い 。
それを送り終えると携帯を閉じた。そして、窓の外の宇宙空間に視線を向ける。ユニウスセブンが見えた。
刹那、ユニウスセブンから閃光が迸った。あまりの眩さにシャトル搭乗者の全員が目を覆った。目が痛い。
直後、大きな揺れがシャトルを襲う。悲鳴。そして、もうどちらが上で下かなんて判断できない状況に陥った。
そこら中に身体を叩きつけられた気がする。だが、途中で意識を手放したから何が起こったかわからない。
はまだ知らない。C.E70年2月14日。この日、後に『血のバレンタインデー』と呼ばれる事件が起こった。
地球連合軍が農業プラントユニウスセブンに核爆弾を撃ち込みユニウスセブンに居た者はすべて亡くなる。
そして、自身もその爆風に巻き込まれて煽られた。シャトル内で唯一生き残った存在であるという事。
――この日、を包む世界が一変したのだ。
変わらない毎日がずっと続くと思っていたのに
2010年4月 脱稿